建築学会-材料施工委員会-内外装運営委員会-断熱材の長期性能と施工精度向上に関するWG(主査:北垣)から、
「施工方法・設置方法に依存する発泡断熱材の長期性能変化に関する材料工学的考察‐建築物の効率的な長期利用に向けて‐」
というタイトルで報告書が公開されました。
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この報告書は、建築学会の分野横断的なワーキングの中で執筆されました。材料施工部門より、建築研究所の宮内先生、建材試験センターの萩原先生、環境部門より東京都市大学の近藤先生、近畿大学の長澤先生、そして、主要な発泡プラスチック系断熱材の工業会であるフェノールフォーム協会、発泡スチロール協会、押出発泡ポリスチレン工業会、ウレタンフォーム工業会にご協力をいただき、これまでわかっている発泡プラスチック系断熱材の長期性能について整理したものになっています。
基本的に、発泡プラスチック系断熱材はすぐれた長期性能を持ちますが、建築物として数十年の利用を考えた場合には、メンテナンスがとても重要です。ちゃんと使えば、長きにわたり高い性能を発揮しますが、無思慮に施工されると、そうでもありません。
省エネ性能がしっかり設計され、解析によって、ZEB、ZEHが実現できると謳われている建築物にとって、断熱材の役割は極めて大きいと思われます。そして、その解析計算には断熱材の熱伝導率が入力されています。しかし、その熱伝導率が断熱材の経年変化により変動していくことについて、どこまで考慮されているのか、把握できない解析も多いように感じます。断熱材も材料である以上、経年変化します。そして、性質をよく理解したうえで利用されることが望まれています。一方で、理解されないまま施工され使用されている、ということもありえるかもしれません。そういった長期的視点で見た場合の性能変化の機微を知るために、コンクリート、金属、高分子材料を中心とする多くの建築材料は、点検・診断・維持・改修といったアクションが意識され、長期性能の考え方が一般的に理解されています。この一方で、断熱材には、この考え方が研究者レベルでは共有されてきましたが、建築物の実用面では十分に取り入れられていないのが現状です。
このWGでは、これからの建築物における省エネルギー化、二酸化炭素排出量削減にとって、ますます重要になってくるであろう発泡プラスチック系断熱材の性能を、他の建築材料と同じように、長期的な視点でどのように理解すればよいのか、どのように性質が変わっていく可能性があり、だから点検・診断・維持・改修をどう考えればいいのか、ということを少しでも意識していただけるきっかけになればと思い、まとめさせていただきました。発泡プラスチック系断熱材は、バランスの取れたいい材料であるからこそ広く使われています。だからこそ、これから長期性能の意識がより高められるきっかけになればと考えております。
これから発泡プラスチック系断熱材を理解しようとする人の一助になることを願っております。