高分子劣化に関する我々のグループの研究論文がパブリッシュされました:
https://doi.org/10.3390/polym13050820
すでに、いくつかの講演でも、内容は発表させていただいてますが、自然暴露における高分子の劣化には様々なタイプが有り、御存知の通り、その違いを理解することはなかなか難しいというのが現状です。2年ぐらい前に、ある研究員の方とこのテーマについてディスカッションする機会があり、ちょうどそのときに走り書きしながら作製したモデルを、世界中の暴露試験場の試験データを利用させてもらって評価した結果、色々と理解できることが増えてきたので論文にまとめさせていただけることになりました。↓は日本を含む代表的な暴露試験場で、共通のポリカーボネート試験体を暴露させた場合のYIの変化を測定したものです。ご覧の通り、自然暴露は雨も風もあれば曇りもあるわけで、この変化をどうやって捉えたらよいかというのはなかなか困難な場合が多いわけです。
過去にいくつか有名な予測モデルというのがあり、建設系の高分子ではあまり取り組み例はないのですが、シンプルな構成の高分子でいくつか報告があります。ただし、高分子の種類によっても予測手法がかわったり、高分子のサンプルに含まれる化学結合、分子量、添加剤などの影響をパラメータとして細かくいれなければならない、というものまで存在します。それはそれでめちゃくちゃおもしろかったりしますが、塗料や接着剤を使うユーザーや施工業者には、こうしたメーカーのコンフィデンシャルな情報は開示されませんので、結局、使う立場にある人は予測がかなり難しい、というのが現状のように思っています。
高分子の種類や構成に、未知の部分が含まれていたとしても、屋外暴露の主たる劣化機構は共通に酸化劣化なので、酸化劣化において、温度依存性と湿度依存性と紫外線照射による依存性を三位一体でモデリングする手法があれば、うまく予測できるようになるのではないか、そして、紫外線は他にいろいろ作用する影響もあるのでこれを加味してやるにはこうしてやればいいんでは、ということでモデリングして、うまくハマったっぽい結果がこちらです。↓
他の高分子にも適用したり、色々高分子の構成を変えるなどの可能性はあるんですが、 こういう工学っぽいモデルは、理由がパッとしない部分もあって、そこを解決する方向性と両輪になりそうです。そもそも光が照射されて温度があがっているのは、最表面の分子の振動が増幅していっていることと、ものによっては切断によって発熱していることが関係しているので、本当はここを区別して評価することも考えないといけないんだよなぁ。より詳しい内容は本文ごらんください。