

任博士,池田くん(D1)らのグラファイト添加型発泡プラスチック系断熱材(グラファイト添加型・押出発泡ポリスチレン断熱材,gXPS)の耐久性向上と発泡構造変化メカニズムに関する研究が,Composites Part A: Applied Science and Manufacturingに採択されました

グラファイト入り押出発泡ポリスチレン断熱材は,熱伝導率が従来よりも低く,かつ機械性能としての長期安定性と熱伝導率の維持性についても優れた製品として注目されています。
本研究は,任博士の発泡プラスチック系断熱材の長期性能メカニズムとその評価方法に関する博士論文研究の最終章の部分に相当し,これまで我々の研究室が培ってきた発泡プラスチックの分析評価方法(発泡構造,Strut構造,化学結合変化,ゲル構造変化を評価する方法)をすべて投入して考察した研究です。任博士が全体の研究を実施し,博士1年の池田くんがこれまで難しかった発泡プラスチックの光学顕微鏡での美麗な撮影手法を構築して,ようやく仕上がったものです。
結論からいうとグラファイトは発泡構造そのものを相当変えており,空隙構造の均質化に貢献しています。その代わりに微細空隙をなくし,中間的な領域に均質な空隙構造に変えています。このことが長期性能の維持に効いています。また,従来の研究では,XCTによる空隙分布測定と光学顕微鏡による観察結果の一貫性を保つことが困難でした。発泡体を構成するセルを光学顕微鏡で観察する場合,さまざまな対物距離があることに加えて,極めて不整形な数μmのフィルムがさまざまな角度で配置しているため,光の反射や拡散によって美麗な像を撮影することが極めて困難でした。この部分の課題解決を実施したことで,XCTによる空隙分布結果と一貫性の取れた光学顕微鏡画像が取得できるようなったことは,今後の発泡プラスチック系材料の製品開発・性能評価に大きな貢献ができたと思います。
先に公示されたJIS A1491「建築用断熱材の長期断熱性能の収束値評価方法」とも関連しますが,断熱材もコンクリートなどの構造材料と同様に耐久性能評価に関心が集まってきています。ZEB・ZEHと認定されるうえで,「省エネルギー」に大きくする部分を断熱材が担っていますが,断熱材の断熱性能は一定値ではありません。当然ながら経年変化をします。材料ならば,当たり前ですよね。でも,現在はその考え方がほとんど導入されていません。過去に※EDO事業などで経年20年でも熱伝導率が中の発泡ガスが空気置換したぐらいしか変化しなかった,という報告はあります。この報告そのものは間違いなく信頼性が高いものですが,断熱材の熱伝導率の測定方法にそもそも課題があります。調べていただくとわかりますが,測定中の断熱材の熱伝導率が安定になったら,それを真とする,という測定方法で熱伝導率を決定しているので,水分や変形がある場合には,結局,水分が測定中に脱離して乾燥した後の値が真となってしまっています。また,測定中に水分が抜けているということは潜熱が移動していることになるので, それこそ実際の建築物から採取した断熱材なのに「鉄?」と疑うほどのものごっつい熱移動が測定中に観測されることがあります。この間の熱移動も実際の断熱材で起こっているのです。壁内結露環境だと,それくらいの熱移動は平気で起こっていると思われるので,壁内結露が生じていたり,建材中への水分の脱吸着を考慮した場合のダイナミックな熱貫流は,本当はその辺でやりつくされている建築シミュレーションの結果とは笑えるほど違うと思われます。
で,これがなぜ報告されないかというと,前に述べた断熱材の熱伝導率の測定方法の規格にそもそもの問題があるのです。少なくとも測定初期の熱伝導率と収束時期の熱伝導率に10%以上の差があったり,収束に10分以上かかるような測定の場合には,何らかの断熱材以外の変動因子のために静的な熱伝導率が測れなかったとして,初期と収束時期の両方の熱伝導率と測定に要した時間などを開示すべきだと思います。
で,余談は以上として,このように,断熱材も,他の構造材料などと同じです,長期に使ったら,「断熱改修」が必要なものであり,建築物もそれを許容する設計であるべきだと思われます。断熱改修の頻度を減らせるgXPSはそういう意味でも今回の実験条件に関しては,高耐久断熱材と言えるのかもしれません。
以上,まだまだ断熱材の耐久性を扱う研究グループは国際的にも必ずしも多くはありませんが,ヨーロッパや北米を中心に調査研究も進みつつあります。我々の研究グループは,海外とも連携しながら,断熱材の省エネルギーと耐久性について,材料学的研究の立場から今後も研究に貢献していきたいと思います

Microstructural changes of XPS foamed plastic adding graphite fillers analyzed by Py-GC/MS and X-ray CT, Composites Part A: Applied Science and Manufacturing, 2025,109132