基本的に,高分子の場合,自由体積が大きくなると,バリア性が低下していくことを示していることになるので,膨潤は一つの目安である.膨潤はある低分子が入り込める範囲の空隙と入り込んだことによる斥力作用の結果,体積が大きくなる,ということになるので,一般にはバリア性が低下する場合が多い.
ただし,ミクロな収縮現象によって自由体積が減り,これがマクロなひび割れや粗大空隙の増大に影響する場合には,膨潤度が低下すると同時に,バリア性も低下する場合がある.
したがって,多くの材料の表層のバリア性を担う高分子にとって,膨潤度の変化とは,ゲル構造の変化であり,何らか拡散性状が変化した一つの証,という理解になる.
このため,より詳細には,拡散性状の直接的測定が重要ということになる.
高分子の場合,拡散するペネトラントからも,それなりの応力作用を受けるし,それによってゲルの状態が変わるから,例えば,Taniokaらも報告するようなPore flowのような厚み依存性やマルチガス相互の依存性もうまれる.Tanioka先生とはお話させていただいたことがあるが,これらの高分子塗膜のバリア性に関する基礎研究がよく行われていた当時は,最終的にはコンポジット系や建築用塗膜にまで手が入らなかったようである.
T先生にも,当時の話を聞くと,化学系と建築系で高分子のインターディシプリンな議論は価値観を合わせるのが難しかったかも,と言われていたし.
現在においても,特に単離しにくい建築用の塗膜高分子ではなかなかうまく測定できないのが現状であるが,例えば拙著に示したような真空のMSに形状を調整したサンプルによって,限定された条件下においては多種のガスの拡散係数,溶解度係数,ガス透過係数を求めることができる.この場合,例えば,ポリウレタンをベースとしたコンポジットの塗膜においては,水分子に引っ張られて,他分子が拡散することが観測される.
調湿された変成シリコーン塗膜の水の拡散係数とその他のガスの拡散係数の関係
当然のことながら,高分子の種類やガラス転移点の上か下かによってもこれらの性状は変わるはずだし,さらにいうと,屋外であると紫外線や温度湿度などの劣化外力の変化によって性能の低下も生じ,耐久性の検討が必要になる.
このような場合,劣化した高分子に対して,膨潤度や拡散性状を測定することは重要だと思われる.しかし,現実には,建築用高分子のこれらの性能に関する評価試験というのは,あまり十分ではないような気がする.
通常は何を見るかというと「黄変」「色差」である.
しかし,色の変化というのは,要するに発色団系の分子が生成されるというだけであって,必ずしも,バリア性が低下するということでもない.むしろバリア性が上がっている場合もある.実際に,いろいろな研究報告において,色差は暴露時間とあまり比例していない,むしろ上下動します,的な報告がほとんどといってもよいのではないだろうか.
また,色が変化しないからといってバリア性が維持されているわけではない.むしろ色がそのままでバリア性が大きく低下することもしばしばある.特にフィラーを含むコンポジットにおいては,フィラー界面,あるいはフィラーの表層に乗った高分子が相互作用によってバルクの状態とは全く異なる反応経路をたどることも報告されている.
だとすると,黄変を調べるというのは性能を評価する上であまり重要な役割を果たしていないことになる.そして,バリア性を評価する他のオーソライズされた手法は十分には定められていない.
「目視して大丈夫だったら,性能としても大丈夫です」
というのは,歯医者さんが
「見た目大丈夫だから歯周病ではないです」
という診察をしているようなのに近いのかもしれない.じゃあ他の方法は,ということになると,それは多分,表面接触角,みたいな話にすぐなるんですが,,,,表面積と物性が同時に変わる状況で,アレはアレで実験結果が現場で使えるという云々よりも,なぜそう変化するのかというところを当たるのがスジなんだろうと思います(接触角がいまのところ評価に向いていない理由はまたこんど詳しく書きたいと思いますが.)