はじめに
北大工学部建築材料学研究室は,建築材料として発泡プラスチック系断熱材の耐久性・長期性能を材料化学的な観点から研究している数少ない?研究室かもしれません。我々の研究室の文献調査や実験結果をもとに,どのようなことがわかってきたか,レビュー原稿の粗案を書くつもりでまとめたいと思います。
1.多種ガス拡散とセル内圧の変化
(1)大気,水分,発泡ガスの拡散(文献1)
発泡プラスチック系断熱材は発泡ガスとして封入されていたガスと大気からのガスが関与する。すなわち,
・大気・水分が外部から内部へ拡散
・発泡ガスが内部から外部へ拡散
である。このときの多品質のガス分圧の変化は一般的な拡散則で拡散すると考えられている。
(2)ガス圧変化(文献2)
拡散則に従って,ガス圧が変化するとすると,基本的には分圧(物質量の分率)の勾配で拡散すると考えられるため,
・大気は内外のガス分圧が等しくなるまで拡散
・発泡ガスは大気に存在しない場合が多いので(ウレタンのCO2ガスは別)なくなるまで拡散する
(3)(1)(2)の結果,セル内の全圧は大気圧より高い状態を維持しながら多様に変化する。一般的には一時的に製造当初より内圧が高まる時期があることも多い。
2.セルを構成する分子構造の変化,それを通じたセル構造の変化
(1)セルは,サブミクロンから数ミクロンの膜厚をもっている。樹脂製品としては決めて薄く,したがって,他の高分子フィルムと同様の変化が生じる。例えば,発泡ガス,大気ガス成分,水分の影響をうけて,酸化,架橋切断,(文献3),水分による膨潤(文献4),未反応剤の遅延的反応,重合(文献5),寸法変化(文献6)がパラレルに発生する。そして,それにともなって力学特性(ヤング率,引張強度,せん断強度など)が変化すると考えられる。したがって,材質が不可避に変化し続ける。逆に不変であるというエビデンスを出すことは不可能である。
(2)一般的なフォーム工学に基づけば,三叉路のストラット周辺,異質材料との界面部に多方向の応力集中が発生するため,ここで「せん断破壊」が生じ,これによってひび割れや微細空隙が発生すると考えられる。これはガス吸着の変化やXCTの結果により報告されている(文献7)
(3)微細空隙が大きくなるとセルが破泡した状態となりセル同士がまとまり(融合),1つの大きなセルになる(文献8)
(4)セルが融合したとしても局所的であり,断熱材の厚みが厚いと外部と接続した独立気泡になるには時間がかかると考えられる。
3.その他の影響によるセル構造変化
(1)フィラー
セル膜の剛性に変化をもたらす。一般的には界面のせん断破壊をもたらすが,2のメカニズムの中で役割を果たすと考えられる。
(2)スキン層
スキン層は異質な表層であるが,変化のメカニズムは1と2と同様である。
(3)発泡後に未反応の成分による,二次発泡や水分や温度などによる化学変化もおこりうる。(文献9)
4.まとめ:材料的変化の結果としての物性変化の理解
以上の変化を通じて,発泡プラスチック系断熱材の複合的な材料的変化の帰結として,物性としての熱伝導率などが変化する。よって,熱伝導率の変化は材料学的現象の結果であり,原因ではない。
補足1:測定方法についての課題
例えば,熱伝導率測定については,製品そのものの初期性状を評価することにフォーカスされているが,長期建築物に存置された後の製品が,含水したり,寸法が大きく変化していたりするものについてはどのように評価するか,が今のところ用意されていない。したがって現場で採取した断熱材を測定する場合に,ある試験規格に準拠して熱伝導率を測定した,材料を採取して材料が安定するまでいったん大気に静置してから適正に測定した,という記載がある(文献10)が,それは一旦乾燥させた後で測定している場合もある。あるいは,安定するまでの過渡状態は,測定環境と平衡になるまでの水分逸散状態である場合もある。そうなると,それは実際に建物の中におかれた状態を体現する測定方法にはなっていない場合があると考えられる。このあたりは今後の省エネ建築をより精緻に認めていく社会においては追加の検討が必要であろう
補足2:長期耐久性の議論は発泡プラスチック系だけではない。繊維系も同じ視点で考える
繊維系断熱材の物性や材料学的な安定性は,繊維を接着剤でワタ状にまとめることで空気の移動が生じないようにすることで実現している。逆に言うと,繊維をまとめる接着剤が劣化すると物性が変化するものである。もちろん発泡プラスチック系断熱材同様に,ことさら大きな変化を生じるものではないと思われるが数10年規模で変化を追う必要がある長期性能を理解するためには発プラ系同様に高分子の長期性能の理解が不可欠であると思われる。
Refference/参考文献
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- Valentina Pintus et. al., What about phenol formaldehyde foam in modern-Contemporary art? Insights in to the unaged and naturally aged material by a multi-analytical approach, Polymers 13 (2021) 1964, https://doi.org/10.3390/polym13121964
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