なぜ,頑張っても集成材に不燃性が付与できないか。多分新しいアプローチが必要である。

なぜ,頑張っても集成材に不燃性が付与できないか。多分新しいアプローチが必要である。

近年,構造用集成材の大型化が進みつつあり,大空間や高層建築への利用が期待される。その中で課題となるのが不燃性の獲得である。これまでの技術開発の経緯からも,被覆なしで不燃性を有する構造用集成材の実現は難しいのが現状である。そこで,

「なぜ集成材単味に対して不燃性が付与できないか」ということを少し冷静に考えてみた。

まず,不燃材料として認定されるためには,750℃の加熱炉の中で20分間,日本国内だと50kW/平米 程度(国際的には100kW/平米 程度までまちまち)の輻射熱を材料表面に与えて,所定の発熱速度・発熱量を超えないことが求められており(ISO 1182的なやつ)構造用集成材に難燃剤を投与し,高温となった表層に,日本語だと炭化層・ガラス化層(文献1,2,実際には,学術的には,ガラス化層と書いてある論文は記憶にない。どちらも,Charringを指すと思われる)などの被覆層を形成するなどして,木材への酸素供給を遮断したり,燃焼中に発生した過酸化ラジカルをトラップして熱酸化反応を阻害する手法(木材ではあまりないが,高分子だと散見される。文献3)が考案されている。

このように,さまざまな難燃剤によって,周辺にある「最大でも20vol%程度,火災時にはもっと減ってる可能性もある低濃度の酸素」が,部材内部へ拡散しようとする場合に,「燃焼反応が内部で生じなくなる程度」の酸素流束低減効果が得られる,と考えられる。

図1.火災時に形成された被覆層ごしに,集成材の外から内部へ輸送される酸素の拡散のイメージ図。

火災時に,雰囲気の酸素濃度が20%以上は,ほぼない。よって十分なガスバリア性をもつ被覆層ならば,部材内部に酸素ガスを輸送し,部材内部の燃焼に寄与できるほどの高濃度にすることはできない。よって被覆層の燃焼性阻害効果は一定程度認められる。

一方で,構造用集成材は,接着剤やリグニンを大量に含んでいることから,部材内部の温度が300℃程度にまで上昇すれば,熱分解反応によって大量の可燃性ガスやラジカルが生成される可能性がある。ここで,被覆層が形成されている場合,内部から外部空間へ拡散・放出される可燃性ガスやラジカルの流束も,外部から内部へ拡散する酸素ガスと同様に低減できるものの,集成材という固体の熱分解で生じる可燃性ガスやラジカルの生成量は,雰囲気濃度の酸素よりも大きくなりやすい(というか火災中に消費されまくっている酸素濃度より,固体が熱分解して生成される低分子量の物質の量・細孔中の濃度が低いことは考えにくい)。空隙に存在しているガスのほぼ100vol%が可燃性ガスやラジカルになっている場合も十分考えられる。しかも場合によっては加圧された状態で生成している場合もあり,モル濃度にするともっと大きいかもしれない。ガス拡散係数(上の図1と下の図2で,内ー外の濃度勾配)が同じだったとして,可燃性ガスやラジカルの一定量が外部空間へ放出され,そこで雰囲気にいる酸素によって可燃性ガスは燃焼され,ラジカルは酸素ともにガス化した分解物をより低分子に酸化,発熱し燃焼を促進する。結果として,不燃性能としてほしい750℃20分間というのは,木材にとってあまりに過酷であり,この条件の下で,表層付近の外部空間で発生する燃焼反応・発熱を止めることはできない。つまり,難燃剤によって,外部から内部への酸素輸送を遮断することができても,内部で生成される可燃性ガスの放出と,それによる部材表層部の燃焼を止めることはできないため,難燃剤を利用するだけでは,構造用集成材が不燃性を獲得することは困難であると考えられる。

図2.火災時に形成された被覆層ごしに,集成材の内から外部へ輸送される可燃性ガスの拡散のイメージ図。

火災時に300℃以上程度になれば,部材内部の熱分解は不可避である。このとき,部材内部に,可燃性ガスが迅速かつ大量に発生するため,部材内部の空隙に占める可燃性ガスの濃度は,100vol%近くなることが予想される。被覆層のガスバリア性が十分高いとしても,可燃性ガスは一定量雰囲気に放出されるため,部材表層で燃焼・発熱する。木部の質量を考えると,雰囲気に放出される可燃性ガス濃度を,部材表層で燃焼できないほど,低くすることはできない。

また,熱分解は,集成材の接着剤によっても促進される。当研究室では,レゾルシノール系接着剤によって構成された集成材が,無垢のラミナよりも,レゾルシノール系接着剤によって熱分解が促進され,フェノールモノマーを主成分とする可燃性ガスを積極的に生成することを報告している(文献4)。このあたりのメカニズムの深掘りは面白そうだが,集成材は無垢材よりもよく燃える可能性が否定できないことを表した実験データの一つともいえる。

以上より,現時点では,構造用集成材の不燃性を付与するために,石膏ボードなどの吸熱材を付着させる対策が取られることが多い。難燃剤がフォーカスしている温度域は,木材のCharringを基本としているので,せいぜい300℃ぐらいである。それ以上の温度になってしまうと役に立たなくなってしまう。よって,750℃で実施する構造用集成材の不燃性評価試験においては,発熱速度,発熱量に対して,別の材料で熱を吸わせるしか方法がなくなってしまう。

以上を踏まえて,構造用集成材の不燃性付与のために,「酸素遮断」を基軸とする何らかの対策を行うことは,そもそも限界に来ているのではないか。と,うちの研究室では考えているので,新たな角度の不燃性の付与を軸に,研究を進めているところである。

あと,Charringをしていたら,絶対に不燃性を実現できない理由がもう一つあると思っているのですが,これは,まだ誰も全然気にしてないので,そのあたりの研究も今年中にやりたいと思います。

参考文献

  1. Jinhan Lu, Peng Jiang, Zhilin Chen, Luming Li, Yuxiang Huang, Flame retardancy, thermal stability, and hygroscopicity of wood materials modified with melamine and amino trimethylene phosphonic acid, Construction and Building Materials, Volume 267, 2021,
  2. Mehmet Dogan, Sengul Dilem Dogan, Lemiye Atabek Savas, Gulsah Ozcelik, Umit Tayfun, Flame retardant effect of boron compounds in polymeric materials, Composites Part B: Engineering, Volume 222, 2021,
  3. Sai T, Ran S, Guo Z, Song P, Fang Z. Recent advances in fire-retardant carbon-based polymeric nanocomposites through fighting free radicals. SusMat. 2022; 2: 411–434.
  4. 北垣ほか:木粉と各種接着剤の混合硬化体とpyGCMSを用いた集成材の燃焼メカニズムの検討,日本建築学会大会学術講演梗概集,891-892,2024

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