
コンクリートやセメントペーストを炭酸化すると,表面で炭酸化が進んで緻密になり,内部へガスが入りにくく,かつ水分が抜けにくくなります。結果としてコンクリートの奥深くまで炭酸化することは困難であり,これが硬化したコンクリートのCO2固定促進の上での大きな課題となっています。(場合によっては,DACコートなどの方法を使うことでCO2を奥深くまで届ける手法もありますが,それは別の話として。)
今回の論文で発表された呉先生のアプローチでは,我々の研究室で提案しているドリップ法(周期的な滴散水を行うことで乾湿繰り返しを制御する方法)を用います。これは,大気CO2濃度で,材料の奥深くのCaイオンを炭酸化させる困難を解決する方法として,ドリップ法を利用する最適環境を見出すための方法を報告しています。
まず,サンプルサイズは,0.6 mm 〜 1.18mmであり,一般的な再生砕石工場で作れる再生細骨材の中で一番粒度が小さいものを利用しています。細骨材で考えると細目の領域ですが,バグフィルタには入らないレベル,微粒分としては,やや粗目のものを対象にしています。これは,我々の研究では,少なくとも一般的な再生砕石工場で,既存の破砕設備とフルイだけで,設備投資をすることなく,1トン/h以上の生産が可能な粒度を想定したいと考えているからです。
この粒度のサンプルの場合,炭酸化の研究で用いられることの多い,一般的なセメント硬化体粉末よりも粒度が粗いため,炭酸化を進めようとすると,粒子表面のみが炭酸化し,内部のCaイオンの炭酸化が大幅に遅れやすいという課題があります。
つまり,少し粗いけど実務的に生産しやすいセメント硬化体粒子を対象に,大気CO₂濃度だけで,散水間隔を制御するだけで,CO2固定を促進するには,どのような環境が望ましいのか,という疑問に解をもたらしたい,というのが私たちの関心です。
結論から言うと,40% RH大気CO2雰囲気下にて,24時間間隔の滴水のみで,28日間DoCが60%を超えるようになります。40% RHという乾燥環境下でドリップを行うと、蒸発に伴う強い毛管張力(ウィッキング効果)が生じ、粒子内部のCa²⁺イオンが表面へ吸い上げられて析出するとともに、微小ひび割れ(マイクロクラック)が生じて内部がポーラスに維持されるメカニズムが明らかになりました。また,実験結果から,必ずしも水中に沈めなくても,この方法を用いると,単純に掛けた時間に比例してCO2固定量が計算できるようになります。これはそこまで微粒子でなく,かつ完全に水中で炭酸化させていない実務的にローコストで実施できる反応系においては,なかなかの良い成績が観測された結果ではないかと思います。

また,W/C=0.5と0.6のみの結果なので,もっと低水セメント比になると変わってくると思いますが,この範囲であれば,炭酸化の進行速度が,我々のドリップの最適条件を使うとほぼ同じになるというところも興味深いところです。これは,要するにCaイオンをいったん表面に引き出してから炭酸化させるんだから,引き出した後の炭酸化速度はほぼ同じになる,つまり,炭酸イオンの拡散が関係しないところで炭酸化反応が生じている,というと理解にもつながります。
粒子サイズが大きくても,奥深くにいるCaイオンをいったん表面に出してからCO2を固定できるようになるため,CO2の拡散律速から界面反応律速への転換(線形反応の持続)が実現。従来の「炭酸カルシウムが細孔を塞いで反応が頭打ちになる現象」を、ウィッキング効果とマイクロクラック形成によって打破し、反応速度が低下せず直線的(線形)に進み続ける条件を数学的・速度論的(JMAKモデル)に実証した点で,なかなか面白い考察になったと思います。もしご興味がある方は是非ご覧ください。